
企業型確定拠出年金(企業型DC)の社員説明会で、私が最初に話すことはありません。話し始めるのは、その会社の社長です。
なぜそうしているのか。そして、ある社長が話した言葉で、その日の説明会がどう変わったのかを書きます。
この記事で分かること
- 社員説明会は、社長の言葉から始める。社員から見れば、いきなり知らない人がよく分からない話を始めることになるため
- 具体的な数字が出ると、話が社員の自分事になる。あとから従業員の方に聞いても、心に残っていたのは「3,000万円」という数字だった
- 効果が本当に分かるのは、そのあとの個別面談。資料を家族と読み込んで来られるか、面倒な時間として来られるかで、中身が変わる
目次
社員説明会は、いつ、何のためにあるのか
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が導入を決めてから実際に始まるまでに、6か月かかります。その途中に、社員のみなさんを集めた説明会があります。
-
会社が導入を決める制度開始の6か月前
制度の設計、掛金の決め方、労使の合意、必要書類の準備。ここまでは会社と支援する側の作業で、社員のみなさんはまだ関わりません。
-
社員説明会この記事はここ制度開始の3か月前
社員のみなさんが企業型DCに初めて触れる場です。制度とは何か、自分にとって何が変わるのかを、ここで知っていただきます。この日が、企業型DCとの最初の接点になります。
-
個別面談説明会のあとから
説明会のあと、一人ひとりと個別に話します。いくら拠出するか、どう運用するかを、その方の事情に合わせて決めていきます。
-
制度の開始導入月
掛金の拠出が始まります。給与明細の見え方もここで変わります。
-
フォローアップ研修会導入の1か月後
全員がログインできているか、買い付けができているかを見ます。手が止まっている方をここで拾います。
会社によっては、この前にもう1回、社員向けの説明の場を持つことがあります。導入する前提で先に伝えておきたい、という会社です。
説明会は、制度が始まる3か月前にあります。社員のみなさんが企業型DCという言葉を初めて聞くのも、この場です。この1回で、その後の受け取られ方が変わります。
うちの会社に企業型DCが必要かどうかは、「うちの会社は企業型DCを導入すべきか — 4つの判断材料」に書きました。
なぜ社長に話してもらうのか
編集部・大谷
社員説明会では、はじめに社長に話してもらうとうかがいました。なぜでしょうか。
以西 裕介
理由は単純です。私がいきなり制度の説明を始めても、社員のみなさんから見れば、私が誰なのかも分かりません。なぜ自分がこの話を聞かなければいけないのかも分かりません。
それに、「こういう会社にしたいんだ」という言葉は、社長の口から出なければ響きません。私がいくら「社長がおっしゃっていました」と言っても、ただの伝聞です。
ビジョン、マインド、指針。この種のことは、必ず社長ご本人の口から言っていただくようにしています。
だから社長には、こう始めてもらいます。
今日は企業型DCの話を聞いてもらいます。細かい部分は全部、以西さんが説明します。そのうえで、この制度を使って自分が何をしたいのか。社長に話してもらうのは、そこだけです。
制度の中身は支援する側の仕事です。社長が制度を説明する必要はありません。話してもらうのは「なぜ入れたのか」だけで足ります。時間は5分あれば十分です。
その日、会議室で社長が話したこと
編集部・大谷
本番の前に、何か準備をされるのでしょうか。
以西 裕介
説明会の前に、必ず一度お打ち合わせで整理をさせていただきます。
制度の中身は扱いません。会社やご自身が従業員のみなさんにどうなってほしいのか。そこを言葉にしていただく時間です。
そのうえで迎えた、ひとつ忘れられない回があります。関東地方の建設業で、従業員10名の会社です。
会議室に社員のみなさん全員が集まっていました。社長はまず、こう言いました。
社長
「うちの会社で働いててよかったなって思ってほしいんですよね。
日々の仕事はすごく大変だし、しんどいとは思うんだけど、忙しいし。ただ、将来の見通しみたいなのが立てば、やっぱり今頑張ろうというふうに思えるし、将来の見通しが立たないような会社ではやってて意味がないと思うんだよね」
話は老後に移りました。うちの会社で長く働いてほしいと思っているので、老後というのもすごく重要なキーワードだ、と社長は言いました。
社長
「いつかみんな仕事を辞めるときが来る。65歳なのか、もう少し働くのか、それは分からないけど、例えばうちの会社で長いこと働いたら、65歳を迎えたときに、3,000万円っていう具体的な数字のお金を持って全員が出られるような会社にしていきたいんだよね。
3,000万円あれば、老後がある程度安定して過ごせるよね。そういう会社にしていきたいんだよね」
導入企業の社長の言葉
あとから従業員の方に聞いたこと
この日から少し経って、従業員のみなさんと個別にお話をしました。そのときに、心に残ったこととしてこう言われました。
従業員の方
「3,000万円という具体的な数字を、社員のために達成したいという気持ちが伝わってきました」
「福利厚生を充実させたい」「社員に長く働いてほしい」。そう話される社長は多いです。ただ、それだけだと聞いている側には何も残りません。自分の生活とどうつながるのかが見えないからです。
「3,000万円」という具体的な数字が出たことで、話が自分のこととして受け取れるようになりました。
社長が言われた「持って出られる」は、制度のうえでもそのとおりです。企業型DCの資産は、退職しても本人の口座に残ります。
転職先へ移すことも、個人型のiDeCoへ移すこともできます。くわしくは「会社を辞めたとき、企業型DCの資産はどうなるか」に書きました。
社長は、制度の説明を一切していません。税制優遇にも、社会保険料にも触れていません。話されたのは、自分が何をしたいか。それだけです。
社員の反応はどうだったか
総務・三浦
それを聞いた社員の方は、どのような反応だったのでしょうか。
以西 裕介
一言で言うと、聞く体勢に入りました。背もたれから背中を離す方、ペンを出してメモを取ろうとする方、うなずいている方、こちらを見るようになった方。
ただ、重要な話なんだな、というのは伝わったのだと思います。
効果が本当に分かるのは個別面談のとき
私たちは、企業型DCを導入する会社の従業員のみなさん全員と個別面談をすることにしています。制度が始まる前に終えます。説明会だけで終わらせず、一人ひとりと話す。そこで、面談の入り方がまったく違ってきます。
| 社長の話があると | ないと |
|---|---|
| 資料を読み込んで、奥さまとも一緒に読んで、「自分はこういうふうにしていこうと思ってるんですけど」と、答えのイメージを持って来られる | 「めんどくさい話で1時間しゃべらないといけないのか」というお顔で来られる |
同じ制度の、同じ説明を受けても、その方が自分のこととして受け取ったかどうかで、面談の中身が変わります。
うまくいかなかった回もあります
編集部・大谷
逆に、うまくいかなかったことはありますか。
以西 裕介
あります。「ビジョンを語ってください」というお願いが、社長にうまく伝わっていませんでした。当日、社長が制度の説明を始めてしまいました。
この会社では、いまも従業員のみなさんの拠出があまり多くありません。せっかく入れた仕組みを、まだうまく活用できていない状態です。
出だしの社長の言葉は、その日だけの話ではありません。あとあとまで効いてくるところです。だからこそ、事前のお打ち合わせで何を話していただくのかを、お互いに確かめておく必要があります。
よくある質問
社長が話す時間は、どのくらい必要ですか。
5分あれば足ります。制度の説明は私たちがいたします。社長にお話しいただくのは、この制度を使って会社がどんなことを成し遂げたいのか、ということです。
話すことが思いつかない場合は、どうすればいいですか。
説明会の前に、必ず一度お打ち合わせで整理をさせていただきます。制度の説明ではなく、会社やご自身が従業員のみなさんにどういうふうになってほしいのか、どんな未来になってほしいのか。そういったことをお話しいただく場です。
社長が当日どうしても時間を取れません。人事の責任者が話すのでもいいですか。
社長に話していただくのが一番です。人事の責任者が話しても、マインドの部分、いい会社にしたいという思いは、なかなか響きません。日程を調整してでも、社長に出ていただくことをおすすめしています。
関連する記事