
同じ企業型確定拠出年金(企業型DC)を、同じ設計で入れても、1年後の姿は会社によって大きく違います。
拠出が伸びて、社会保険料も採用費も動いた会社。制度は入ったものの、口座に眠ったままの会社。何が分かれ目になっているかを書きます。
この記事で分かること
- 分かれ目は4か所。役員の理解/説明会の開き方/個人面談の組み方/事後説明会
- 社長が話さなかった会社では、いまも拠出が伸びていない。「ビジョンを語ってください」が伝わらず、当日に制度の説明が始まってしまった
- 導入して1年目が一番大変。1年経ってもログインしていない社員が20人いたグループ会社がある
分かれ目は4か所ある
これまでに支援した会社を並べると、差がつくのはいつも同じ4か所です。
| 効果が出ている会社 | そうでない会社 |
|---|---|
| 役員・社長:従業員のためを考え、働きやすい環境を作る一つとして協力的 | 役員・社長:費用対効果だけを追う。目先の損得で判断するため、制度が広がらない |
| 説明会:就業中にリアルとオンラインのハイブリッド。参加できない人はアーカイブ確認を義務化 | 説明会:アンケートや資料を配るだけ。興味を持った人だけ面談へ |
| 個人面談:就業時間中に有給で受けられる。会議室かオンラインで連続4〜5人。可能なら半休を渡す | 個人面談:休みの日や就業後に、興味のある人だけ予約を取らせる |
| 事後説明会:オンラインとアーカイブで実施。個人面談でフォローする | 事後説明会:資料を配るだけ |
4つとも、制度の設計とは関係がありません。会社が従業員の時間をどう扱うかの問題です。
表に書かれていない、その手前の一手
上の表よりさらに手前に、もう一つあります。社員説明会で、社長が自分の言葉で「なぜ入れたのか」を話すかどうかです。
話していただくのは5分で足ります。制度の説明はこちらでします。社長にお願いするのは、この制度を使って会社がどうなってほしいか、それだけです。
ある会社の社長は、会議室でこう言いました。65歳を迎えたときに3,000万円という具体的な数字を持って全員が出られる会社にしたい、と。そのあと、部屋の空気が変わりました。「社員説明会は、社長の言葉から始まる」に、その日のことを書いています。
うまくいかなかった回
逆の例も書きます。
製造業で、従業員40名ほどの会社です。「ビジョンを語ってください」というお願いが、社長にうまく伝わっていませんでした。当日、社長が制度の説明を始めてしまいました。
この会社では、いまも従業員の拠出があまり多くありません。せっかく入れた仕組みを、まだ活用できていない状態です。
私たちの側の失敗です。事前の打ち合わせで、何を話していただくのかを詰めきれていませんでした。出だしの5分は、その日だけの話で終わりません。
導入した会社の社長
5分で何を話せばいいのか、正直わかりません。
以西 裕介
制度の説明はこちらでします。お願いするのは、この制度を使って会社がどうなってほしいか、それだけです。
うまく言おうとしなくて大丈夫です。会議室で「65歳を迎えたときに3,000万円を持って全員が出られる会社にしたい」と言った社長がいます。それだけで、部屋の空気が変わりました。
個人面談をどう組むか
この制度がうまくいくかどうかの肝は、個人面談にあります。
私たちは、導入する会社の従業員全員と、制度が始まる前に面談します。説明会だけで終わらせず、一人ひとりと話します。ここに会社の協力と、ある程度の強制力が必要です。
休みの日に、興味のある人だけ予約を取る形にすると、いま必要な人ほど来ません。就業時間中に有給で受けられる仕組みにして、会議室かオンラインで連続4〜5人。可能なら半休を渡していただきます。組み方は「個人面談を就業時間中に組む」にまとめました。
社長の話があった会社では、面談の入り方が違います。
| 社長の話があると | ないと |
|---|---|
| 資料を読み込んで、奥さまとも一緒に読んで、「自分はこういうふうにしていこうと思ってるんですけど」と、答えのイメージを持って来られる | 「めんどくさい話で1時間しゃべらないといけないのか」というお顔で来られる |
資料を家に持ち帰って、家族と読んでいる。誰も指示していません。それでも、その人が自分のこととして受け取ったことが、この一点で分かります。
導入して1年目が、実は一番大変
導入前の話は世の中にたくさんあります。導入した直後の負担について書いたものは、ほとんど見当たりません。
グループ5社でまとめて導入した会社で、こういうことがありました。導入から1年ほど経っても、20人ほどの資産が未指図資産のままでした。掛金は拠出されているのに、どの商品を買うかを指定していないため、現金のまま置かれている状態です。自分が拠出したお金も、会社が拠出したお金も、運用に回っていませんでした。
未指図資産になっている人が誰かは、会社の画面で分かるようになっています。ログインしたかどうかは分かりません。ただ、未指図資産のままの人は、ログインすらしていないことがほとんどです。この会社では、その画面を見ていませんでした。1年が過ぎてから手をつけることになります。
放っておくと、どうなるか
特定期間(3か月以上)と猶予期間(2週間以上)が過ぎると、規約に定めがあれば自動的に商品が買い付けられます。このとき買われる商品を指定運用方法といいます。2018年5月から始まった仕組みです。
ただし、ここに2つの穴があります。
1つめ。指定運用方法を置いている会社が4割ほどしかありません。置いていない制度では、指図をしないかぎり現金のまま残ります。
2つめ。置いている場合も、多くは定期預金などの元本確保型です。自動的に買われても、増えることはほとんどありません。
指定運用方法を活用している事業主は2020年度で約4割(出典:大和総研「DCにおける指定運用方法の現状と課題」2022年9月6日)。特定期間・猶予期間の定めは確定拠出年金法にもとづき、実際の長さは制度の規約で決まります。
編集部・大谷
自動的に定期預金になるのなら、放っておいても困らないのではないでしょうか。
以西 裕介
困ります。長く積み立てるものなので、若いうちほど投資信託で運用したほうが結果が良かった、というデータがあります。定期預金で40年置いても、ほとんど増えません。
ただし、運用した結果で受け取る額が減ることもあります。だから、放っておかずに一度は自分で選んでいただきます。
全員の買い付けが終わるまでフォローしました。手順はこうです。
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止まっている人を出してもらう
未指図資産になっている人を、総務・人事にピックアップしてもらいます。会社の画面で分かります。ここだけお願いします。
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その人たちでグループLINEを作る
個別に催促する形にしません。
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終わった人から抜けていく
ログインして買い付けした画面を出した人から、グループを抜けます。だんだん人数が絞られます。
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全員が終わるまでやる
本来は会社の仕事ですが、会社だけで進めるのは難しいので、私たちが間に入りました。
もう一つ変えているのは、質問の受け口です。従業員からの質問を総務や人事が受けて、そこから私に投げる形にしません。従業員から直接こちらへ質問が来て、その場で答えられる仕組みにしています。
総務・人事にお願いするのは、誰が止まっているかを出すことだけです。
総務・三浦
止まっている人を出す、というのは総務の仕事が増えるということでしょうか。
以西 裕介
お願いするのは、そこだけです。未指図資産になっている人を出していただきます。会社の画面で分かります。
質問の受け口は総務を通しません。従業員から直接こちらへ来て、その場で答えます。
よくある質問
効果が出ているかどうかは、何で測ればいいですか。
社会保険料、採用費、離職率の3つです。飲食業60名の会社では、社会保険料が年216万円、採用費が年68万円下がり、例年20名ほどだった離職が10名以下になりました。
すでに導入していて、止まっています。いまからでも動かせますか。
動かせます。運営管理機関を変えずに、導入後の支援だけを引き受ける形も扱っています。まず、止まっている人が何人いるかを出すところから始めます。
社長が説明会に出られない場合はどうなりますか。
社長に話していただくのが一番です。人事の責任者が話しても、マインドの部分、いい会社にしたいという思いは、なかなか響きません。日程を調整してでも、社長に出ていただくことをおすすめしています。
その「いい会社にしたい」を誰の目から見るかは、「いい会社とは、誰にとっていい会社か」に書きました。