導入後定着

導入して効果が出る会社と、出ない会社の違い

分かれ目は制度の設計ではありません。社長が話すか、説明会をどう開くか、面談を就業時間に入れるか。この3つです。

説明会で話す以西裕介

同じ企業型確定拠出年金(企業型DC)を、同じ設計で入れても、1年後の姿は会社によって大きく違います。

拠出が伸びて、社会保険料も採用費も動いた会社。制度は入ったものの、口座に眠ったままの会社。何が分かれ目になっているかを書きます。

この記事で分かること

  1. 分かれ目は4か所。役員の理解/説明会の開き方/個人面談の組み方/事後説明会
  2. 社長が話さなかった会社では、いまも拠出が伸びていない。「ビジョンを語ってください」が伝わらず、当日に制度の説明が始まってしまった
  3. 導入して1年目が一番大変。1年経ってもログインしていない社員が20人いたグループ会社がある
目次
  1. 分かれ目は4か所ある
  2. 表に書かれていない、その手前の一手
  3. うまくいかなかった回
  4. 個人面談をどう組むか
  5. 導入して1年目が、実は一番大変
  6. よくある質問

分かれ目は4か所ある

これまでに支援した会社を並べると、差がつくのはいつも同じ4か所です。

効果が出ている会社そうでない会社
役員・社長:従業員のためを考え、働きやすい環境を作る一つとして協力的 役員・社長:費用対効果だけを追う。目先の損得で判断するため、制度が広がらない
説明会:就業中にリアルとオンラインのハイブリッド。参加できない人はアーカイブ確認を義務化 説明会:アンケートや資料を配るだけ。興味を持った人だけ面談へ
個人面談:就業時間中に有給で受けられる。会議室かオンラインで連続4〜5人。可能なら半休を渡す 個人面談:休みの日や就業後に、興味のある人だけ予約を取らせる
事後説明会:オンラインとアーカイブで実施。個人面談でフォローする 事後説明会:資料を配るだけ

4つとも、制度の設計とは関係がありません。会社が従業員の時間をどう扱うかの問題です。

表に書かれていない、その手前の一手

上の表よりさらに手前に、もう一つあります。社員説明会で、社長が自分の言葉で「なぜ入れたのか」を話すかどうかです。

話していただくのは5分で足ります。制度の説明はこちらでします。社長にお願いするのは、この制度を使って会社がどうなってほしいか、それだけです。

ある会社の社長は、会議室でこう言いました。65歳を迎えたときに3,000万円という具体的な数字を持って全員が出られる会社にしたい、と。そのあと、部屋の空気が変わりました。「社員説明会は、社長の言葉から始まる」に、その日のことを書いています。

うまくいかなかった回

逆の例も書きます。

製造業で、従業員40名ほどの会社です。「ビジョンを語ってください」というお願いが、社長にうまく伝わっていませんでした。当日、社長が制度の説明を始めてしまいました。

この会社では、いまも従業員の拠出があまり多くありません。せっかく入れた仕組みを、まだ活用できていない状態です。

私たちの側の失敗です。事前の打ち合わせで、何を話していただくのかを詰めきれていませんでした。出だしの5分は、その日だけの話で終わりません。

導入した会社の社長

5分で何を話せばいいのか、正直わかりません。

以西 裕介

制度の説明はこちらでします。お願いするのは、この制度を使って会社がどうなってほしいか、それだけです。

うまく言おうとしなくて大丈夫です。会議室で「65歳を迎えたときに3,000万円を持って全員が出られる会社にしたい」と言った社長がいます。それだけで、部屋の空気が変わりました。

個人面談をどう組むか

この制度がうまくいくかどうかの肝は、個人面談にあります。

私たちは、導入する会社の従業員全員と、制度が始まる前に面談します。説明会だけで終わらせず、一人ひとりと話します。ここに会社の協力と、ある程度の強制力が必要です。

休みの日に、興味のある人だけ予約を取る形にすると、いま必要な人ほど来ません。就業時間中に有給で受けられる仕組みにして、会議室かオンラインで連続4〜5人。可能なら半休を渡していただきます。組み方は「個人面談を就業時間中に組む」にまとめました。

社長の話があった会社では、面談の入り方が違います。

社長の話があるとないと
資料を読み込んで、奥さまとも一緒に読んで、「自分はこういうふうにしていこうと思ってるんですけど」と、答えのイメージを持って来られる 「めんどくさい話で1時間しゃべらないといけないのか」というお顔で来られる

資料を家に持ち帰って、家族と読んでいる。誰も指示していません。それでも、その人が自分のこととして受け取ったことが、この一点で分かります。

導入して1年目が、実は一番大変

導入前の話は世の中にたくさんあります。導入した直後の負担について書いたものは、ほとんど見当たりません。

グループ5社でまとめて導入した会社で、こういうことがありました。導入から1年ほど経っても、20人ほどの資産が未指図資産のままでした。掛金は拠出されているのに、どの商品を買うかを指定していないため、現金のまま置かれている状態です。自分が拠出したお金も、会社が拠出したお金も、運用に回っていませんでした。

未指図資産になっている人が誰かは、会社の画面で分かるようになっています。ログインしたかどうかは分かりません。ただ、未指図資産のままの人は、ログインすらしていないことがほとんどです。この会社では、その画面を見ていませんでした。1年が過ぎてから手をつけることになります。

放っておくと、どうなるか

特定期間(3か月以上)と猶予期間(2週間以上)が過ぎると、規約に定めがあれば自動的に商品が買い付けられます。このとき買われる商品を指定運用方法といいます。2018年5月から始まった仕組みです。

ただし、ここに2つの穴があります。

1つめ。指定運用方法を置いている会社が4割ほどしかありません。置いていない制度では、指図をしないかぎり現金のまま残ります。

2つめ。置いている場合も、多くは定期預金などの元本確保型です。自動的に買われても、増えることはほとんどありません。

指定運用方法を活用している事業主は2020年度で約4割(出典:大和総研「DCにおける指定運用方法の現状と課題」2022年9月6日)。特定期間・猶予期間の定めは確定拠出年金法にもとづき、実際の長さは制度の規約で決まります。

編集部・大谷

自動的に定期預金になるのなら、放っておいても困らないのではないでしょうか。

以西 裕介

困ります。長く積み立てるものなので、若いうちほど投資信託で運用したほうが結果が良かった、というデータがあります。定期預金で40年置いても、ほとんど増えません。

ただし、運用した結果で受け取る額が減ることもあります。だから、放っておかずに一度は自分で選んでいただきます。

全員の買い付けが終わるまでフォローしました。手順はこうです。

  1. 止まっている人を出してもらう

    未指図資産になっている人を、総務・人事にピックアップしてもらいます。会社の画面で分かります。ここだけお願いします。

  2. その人たちでグループLINEを作る

    個別に催促する形にしません。

  3. 終わった人から抜けていく

    ログインして買い付けした画面を出した人から、グループを抜けます。だんだん人数が絞られます。

  4. 全員が終わるまでやる

    本来は会社の仕事ですが、会社だけで進めるのは難しいので、私たちが間に入りました。

もう一つ変えているのは、質問の受け口です。従業員からの質問を総務や人事が受けて、そこから私に投げる形にしません。従業員から直接こちらへ質問が来て、その場で答えられる仕組みにしています。

総務・人事にお願いするのは、誰が止まっているかを出すことだけです。

総務・三浦

止まっている人を出す、というのは総務の仕事が増えるということでしょうか。

以西 裕介

お願いするのは、そこだけです。未指図資産になっている人を出していただきます。会社の画面で分かります。

質問の受け口は総務を通しません。従業員から直接こちらへ来て、その場で答えます。

よくある質問

効果が出ているかどうかは、何で測ればいいですか。

社会保険料、採用費、離職率の3つです。飲食業60名の会社では、社会保険料が年216万円、採用費が年68万円下がり、例年20名ほどだった離職が10名以下になりました。

すでに導入していて、止まっています。いまからでも動かせますか。

動かせます。運営管理機関を変えずに、導入後の支援だけを引き受ける形も扱っています。まず、止まっている人が何人いるかを出すところから始めます。

社長が説明会に出られない場合はどうなりますか。

社長に話していただくのが一番です。人事の責任者が話しても、マインドの部分、いい会社にしたいという思いは、なかなか響きません。日程を調整してでも、社長に出ていただくことをおすすめしています。

その「いい会社にしたい」を誰の目から見るかは、「いい会社とは、誰にとっていい会社か」に書きました。

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ファイナンシャルプランナー 以西裕介

この記事を書いた人

以西 裕介いさい ゆうすけ

株式会社ソケットクリエイティブ 代表取締役/一般社団法人確定拠出年金推進協会 理事。
26歳で独立起業。創業間もなく社員の離職が相次ぎ、自社の経営難という苦い経験に直面する。以来、金融と人事の両面から中小企業を支援。企業型確定拠出年金の導入支援、職場の金融教育、チームビルディングを手がける。のべ面談 年間約500回。
2級FP技能士/DCプランナー/二種証券外務員。著書『社員が辞めない組織を作る3つの方法』