企業型確定拠出年金(企業型DC)の相談をいただくと、私はまず目的をうかがいます。社会保険料の負担を下げたい、福利厚生を充実させたい。目的はいろいろです。
この記事で分かること
- 制度がいいから、では導入は決まらない。決め手になるのは、その社長が会社をどうしたいか
- 福利厚生が1番目で、人材の定着が2番目。利益が出たら福利厚生を、と考えると順番が来ない
- 離職率の次に見ているのは、社員の紹介で採用できた人数。友人に勧められると思っていなければ、紹介は起きない
目次
制度がいいから入れましょう、では続かない
企業型DCには、制度として有利な点がいくつもあります。ただ、そこから入る話し方を私はしません。
編集部・大谷
制度の説明から入らない、というのはなぜでしょうか。有利な点が多いのなら、そこが決め手になりそうです。
以西 裕介
制度がいいから導入しましょう、というのは、私の中では薄っぺらいなと思っていて。
人材が定着してほしいよね。それは何でなんだろう。会社を永続的に回すには何が必要なんだろう。そこを飛ばしたくありません。
編集部・大谷
では、実際に導入を決める社長は、何を見て決めているのでしょうか。
以西 裕介
制度では決めていません。いい会社を作りたいとか、うちの従業員にいい老後を過ごしてほしいとか、社長の思想やマインドのほうが動機づけになっています。
中小企業では、株主は社長本人
いい会社にしたい、という言葉はよく出ます。ただ、誰から見た「いい」なのかで、中身が変わります。
社員から見れば、働きやすくて、この先が見える会社です。取引先から見れば、約束を守り、来年もある会社です。社員のご家族から見れば、無理なく続けられて、生活が立つ会社です。社長ご自身から見れば、利益が出て、判断が自由になる会社でしょう。
編集部・大谷
中小企業のステークホルダーというと、誰のことを指すのでしょうか。
以西 裕介
基本は株主です。そして中小企業では、株主イコール社長であることがほとんどです。
だから「ステークホルダーのために」と言っても、中身は社長のために、という話になります。
編集部・大谷
大企業は株主のために動くのが基本線だと言われます。中小企業でも同じではないのでしょうか。
以西 裕介
同じにすると、会社の私物化が始まります。そこから先、成長は止まります。
止まること自体は、悪いことではない
ここを誤解されると困るので、続けて書きます。
編集部・大谷
成長が止まるというのは、避けるべきことでしょうか。
以西 裕介
悪いことだとは思っていません。家族経営で、これ以上大きくしないと決めている会社もあります。そういう会社が、福利厚生ではなく社会保険料を下げる目線で企業型DCを入れる。それで構わないと思っています。
編集部・大谷
では、分かれ目はどこにあるのでしょうか。
以西 裕介
社員を入れて成長させていこうという会社かどうかです。
そういう会社であれば、福利厚生という観点で従業員を幸せにしていく。そのほうが大きくなると私は考えています。
ここから先は、社員を入れて大きくしていこうという会社の話です。家族経営で規模を保つと決めている会社は、読み方を変えてください。「企業型DCの費用は結局いくらか」のほうが役に立ちます。
順番が決まっている
会社が大きくなっていく形を、5つの段階で置いています。
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福利厚生を充実させ、働きやすい環境を作る
その仕組みの一つが企業型DCです。
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働きやすい環境ができ、人材が定着する
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人が定着し、一人あたりの生産性が上がる
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生産性が上がり、利益の出る体質に近づく
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その利益で、また新しい福利厚生に取り組む
1に戻ります。回るほど大きくなります。
福利厚生が1番目で、人材の定着が2番目です。利益が出たら福利厚生を、と考えると、この順番が逆になります。逆にすると、いつまでも1番目が来ません。
企業型DCで会社が出す額は、月3,000円から設定できます。給与の置き場所を変える形にすれば、会社が払う総額は変わりません。1番目を先に置くことは、利益を待たなくてもできます。
編集部・大谷
福利厚生が先というのは、利益が出てからでは遅い、ということでしょうか。
以西 裕介
遅いというより、順番が来ません。利益が出たらやろう、と思っているうちは、別の使い道が先に決まります。
月3,000円なら、いま決められます。金額の大きさより、決めたかどうかのほうが効きます。
辞めた人の数より、紹介の数
いい会社かどうかを何で測るか。長く使われてきたのは離職率です。私はいま、もう一つの数字を見ています。
社員の紹介で採用できた人が、どれくらいいるか。リファラル採用率です。
離職率が下がったというのは、辞めなかったということです。紹介はそこから一歩進みます。社員自身が「友人に自信を持って勧められる」と感じていなければ、紹介は起きません。働きがいと働きやすさの両方がそろっている、という証明になります。
採用にかかるお金の面でも効きます。1人採用するのにかかる費用は、年収の30〜35%が目安とされています。年収400万円なら約120万円です。紹介で決まれば、ここがまるごと要りません。
出典:プログレス令和8年4月1日号
紹介が起きるまでの流れは、こう見ています。
| 段階 | 起きること |
|---|---|
| 1 基盤を整える | 福利厚生で、健康と経済的な安心を確保する。企業型DCは老後の不安の部分を受け持つ |
| 2 成長を実感する | 教育と働き方の見直し。この会社で働き続けたい、と思える実感が出る |
| 3 人に勧めたくなる | 会社を好きになり、知人に勧める。ここで紹介が生まれる |
| 4 合う人が集まる | 価値観の近い人が入ってきて、組織がさらに強くなる |
毎週、同じことを問いかけ続けた会社
定時で帰れる会社にする、と決めた会社があります。やったことは3つです。
まず管理職の意識から変えました。いきなり全社ではありません。次に多能工化を進めました。特定の人しかできない仕事を減らし、忙しい部門に他の部門から入れるようにするためです。
3つめが、いちばん地味です。ランチタイムに短いミーティングを置きました。そこでいかにこの会社が定時で帰ることを大切にしようと思っているのか、そのためには何が必要かを、毎週のように問いかけ続けました。
離職は大きく減りました。そして「あの会社は定時で帰れる」という話が外に広まり、社員の紹介による採用が増えました。
制度を入れたからではありません。社長が同じことを言い続けたからです。
導入した会社の社長
うちも社員のためにやっているつもりですが、伝わっているかどうかは分かりません。
以西 裕介
紹介が起きているかどうかで見えます。友人に勧められると思っていなければ、紹介は起きません。
伝え方の話でもあります。同じ制度を入れても、社長が自分の言葉で理由を話した会社と、資料だけ配った会社では、1年後がまるで違います。
5分に何が残るか
企業型DCを導入する会社では、制度が始まる前に社員説明会を開きます。その冒頭で、社長に5分だけ話していただきます。
制度の説明はしていただきません。お願いするのは、この制度を使って会社がどうなってほしいか、それだけです。
5分で話せることは多くありません。だからこそ、そこに残ったものが、その会社の答えになります。ある社長は「65歳を迎えたときに3,000万円を持って全員が出られる会社にしたい」と話しました。その日のことは「社員説明会は、社長の言葉から始まる」に書きました。
ご自身の会社では、その5分に何が残るでしょうか。
よくある質問
いい会社かどうかは、何で測ればいいですか。
離職率と、社員の紹介で採用できた人数です。紹介は、社員が友人に勧められると思っていなければ起きません。
福利厚生を増やす余裕がありません。
企業型DCは月3,000円から始められます。給与の一部を掛金に回す形なら、会社が払う総額は変わりません。設計は「会社が月3,000円を出すと、全員が加入者になる」に書きました。
制度を入れれば、社員は辞めなくなりますか。
入れただけでは変わりません。分かれ目は入れたあとにあります。「導入して効果が出る会社と、出ない会社の違い」に4か所書きました。